雇われ嫁の備忘録

42歳主婦が人生を変えようと奮闘する話

第11話 一番怖いもの

ちょうど今から24年前。

 

高校卒業してすぐに就職することを選んだ私は、大手航空会社の機内食を作る所へ就職しました。

今思えば、あそこほど恵まれた職場環境はないと思えますが、そこはまだハタチにも満たない子供です。

始めて直面する多種多様な年齢と人間関係に、一年半でノックアウト。

辞めることになったのです。

今では考えられない高給に、入ったばかりで貰えてしまうボーナス3ヶ月分!

 

それを……易易と

あーーーあ……勿体無い……(笑)

 

ともあれ、合わない職場から自力で退職するというスキルを初めて身につけた私は、その後数々のアルバイトに明け暮れることになります。

 

コンビニ店員、漫画喫茶店員、パン屋店員、また別のコンビニ店員、お茶販売員。

 

転職するたびに、接客業の楽しさに目覚めていき

そして同時に

 

「合わなかったらどんどん辞めて次の職場を探せばいい」

 

という若さ全開の自己肯定感溢れまくりのマインドで、働くことの楽しさを目一杯味わっておりました。

掛け持ちしながら、朝の5時から夜の8時までするときもありました。

若さってすごい。

とにかく楽しかったですね、あの時期は。

 

しかし、その時期の中でとある事件がおきました。

 

職場が倒産する

 

という出来事でした。

 

ある日突然、それまで現場を取り仕切っていた店長が辞めて、代わりに社長がやってきて取り仕切ることになりました。

 

でも今までほぼ全く店になど来たことがなかった社長が製造リーダーとしてやっていけるわけがありません。

 

社長が作る商品は失敗作続き、なのにその失敗作を店頭に並べる始末。

今の状況についての説明は少なくともアルバイトたちにはほぼ伝えられず、不信感が広まっているにも関わらず、社長はやたらと明るく元気に私達とコミュニケーションを取ろうとしてくるのです。

 

そのうち何週間かで社長すら来なくなり、私達は残された人たちで製造販売をしなければいけなくなりました。

給料も遅れるようになり、ますます職場に不穏な空気が立ち込めるようになりました。

 

パートのおばちゃんたちは、

「給料はもう貰えないよ。滞納分も。倒産するんじゃないかって噂だよ。無いところから貰えるはずないよ」

と、もうハナから諦めモード。

温厚な副店長も、鼻息荒く怒っているのが目に見えて感じ取れました。

 

私ともうひとりの若いアルバイトは

「でもそんなこと許されるはずない!だって仮に100万円の給料の人がいたらそんな理由で諦めるわけない!何か給料を取り返す方法があるはずだよ!!」

と燃えていました。

 

世の中の仕組みなど全く勉強してこなかった20歳そこそこのアルバイトが、当時普及し始めていたインターネットを使って、給料を取り戻そうと調べ始めます。

そこで初めて目にした

 

労働基準監督署……」

 

アルバイト二人は、なんの準備もなしに隣町にある労働基準監督署へ足を踏み入れたのでした。

 

ここまで来ると若い二人にとっては、もうある意味一種のアトラクションというかイベントをしてるような感覚でした。

 

一つの倒産しそうな会社から自分たちの大事な給料を取り戻すという未知の体験。

私達は勇者なんだ。

正義の味方なんだ。

お店のみんなのために必ず給料を持って帰ってやる!!!

 

そんな気持ちで労働基準監督署の担当者さんに、若さを盾にとりとめなく訴えまくったのでした。

 

この会社は悪。

なんにも言ってくれなかった会社が悪者。

その気になればこうやって動くこともできる。

従業員を甘く見るなよ。

泣き寝入りなんかしないんだからな。

 

私達が労働基準監督署に訴えた結果、

給料は全額ではありませんでしたが何割か返ってきました。

労働基準監督署が立て替えるという形でした。

従業員全員分の給料は高額でしたが、それを社長は負債として抱えるというふうに書類に書いてありました。

 

後日、友達と興味本位で本社を見に行ってみたのですが、差し押さえの紙のようなものがガラスの窓に貼られていました。

それまで給料をいくらかでも取り戻せたという高揚感にあふれていた私達でしたが、実際の会社の様子を見て

 

ああ……本当に倒産したんだ……社長…どうやって負債返すんだろう…

と、若いながらに少し思ったのを覚えています。

 

 

時は流れて

 

いま自分は

 

一歩道を踏み間違えれば

 

従業員に訴えられる側にいます。

 

夫の父である在りし日の会長の言葉。

 

「どんな仕事でも真面目に、真摯に、正直に、いいものを作って頑張っていれば、お客さんは必ずついてくる。わかってくれる人には伝わるんだ」

 

お客さんももちろんだけど、私はこの相手を従業員さんに置き換えていつも考えています。

会社での事はどんなことでも話す。

なんでも要望を聞く。

提案を喜んで受け入れ、実現させるよう努力する。

 

会社のために毎日頑張ってくれている従業員さんたち

 

私はみんなだいすきです。

 

 

でも

 

一番怖いのも

 

従業員さんたちだっていうことを

 

自分が一番良く知っている。

 

そのことを忘れずに、今日も一日頑張ろう!

と思うgomaでした。

 

思い出話回になってしまいましたね。次回はまた現在に戻ります!