雇われ嫁の備忘録

42歳主婦が人生を変えようと奮闘する話

第8話 逸材

10年も同じ会社にいると色々な人に出会います

いろんな人が去っていき、いろんな人が面接にやってくる

現在、従業員の多くは私の後に入社して来た方ばかり。

そして年上の方がほとんどです。

 

これまで出会ってきた従業員さんたちは

ごくごく一般的な就業形式で働いておりました

上司に言われた仕事を黙々とこなし

ミスが無いように注意しながら製品を製造していく

 

暇があれば世間話も交えながら

忙しい中にも楽しさを見つけて毎日頑張ってくれておりました。

この中には私も含まれています。

 

会社の内部事情など気に留めることもありません

決算がいつなのかもわかりません

従業員さんたちがいくらのお給料で働いてくれているのかも知りません

赤字なのか黒字なのか

儲かってるのかそうでないのか

そんなことは私には一切わかりません

 

ただ

他の従業員さんたちと一緒に

時間から時間まで言われた通りの仕事をこなし

家に帰れば育児と家事

休日も決まりきった会社の仕事をこなす。

その繰り返しの毎日でした

 

ここに嫁ぐということは

いずれは上司である夫の母の仕事を受け継ぐということ

その事は10年以上前からずっと決まっていました

受け継いだら夫の母と同じように

同じ仕事をする

そういうものなんだと信じて疑いませんでした

 

目の前に置かれた仕事をやるだけの毎日

そのことが

間違っていようが合っていようが

非効率的だろうが無駄な動作だろうが

そんなことまで私は理解する必要は無いのです。

こうしたら素早く出来るんじゃないかと思って作業内容をを変えてみたりしても

こうやったらどうだろうとかアイデアを思いついても

意見が反映されることはない

 

時が進むに連れて

段々とそうやって考えることすらしなくなり

早く会社終わらないかなあと時計ばかり気にする様になりました

会社はちっとも楽しい場所じゃない

むしろ苦痛。

いっそのこと潰れてしまえばいい、なんて考えたこともありました。

 

自分の希望なんて通ることはない

変えることなんてできるわけが無い

もう進むべきレールは決まっていて、それを自分で変えることはできない

いつ上司の後を継ぐ日が来るのかも解らぬまま

言われた通りの事だけを、上司の顔色を伺いながら、負の感情を抱きながら

やり続けるしかなかったのです。

 

 

 

 

緊急事態宣言が出て半月ほど経ったある日

その新入社員さんはやってきました。

コロナ禍になってから初めての社員さんです。

このご時世ですから、もちろんマスクで顔は覆われていてどんな素顔なのか伺うことは出来ません

担当は製品の配達。

スーパーや小売店に朝早くからトラックを走らせます。

午後に配達がない時は、工場に入って製品の検品作業や梱包作業をこなします。

ミスや慌てることもなく、確実に仕事をこなしていく社員さん

 

ある日、彼はこんな事を言いました

「ここの会社って変わってるね」

突然の話題に思わず作業の手が止まります

「変えていこうとかは思わないの?」

私は面食らいました。

少し引きつりながら、けれども平静を保ちつつ

「変えられるわけないじゃないですか……私はただの労働者でしかないんですよ……」

と返答しました。

するとこう言いました

 

「俺だったら、うちらがやるからどっかいけって言うけどね」

 

その場は笑って終わりましたが、その言葉が凄く心に引っかかりました。

丁寧な言い方をすれば、

「私と夫で会社を運営していくからもう引退してはいかがでしょうか?」

ということになります。

うん、常識的に何もおかしいところは無いな

上司である夫の母ももう60代後半になるし、引退を考えてもらうのが自然なのかもしれない

 

今まで私は上司が

「もう引退するからあとは任せます」

と言ってくれるのを、いつだろういつだろうとただ待つだけだった。

でも自分たちで期日を決めて、この日からは交代する!と決めて、準備していく事は出来るんじゃないか?

いや、むしろそれが出来ない経営者なんてあり得ないんじゃないか?

 

これまでもたまにパートさん達から会社運営の仕方についての意見や苦情はありました。

私も一応経営者の嫁という立場ですから、そういう意見は無視できず聞き役になっていました。

でもあくまで聞くだけです。

だって私には意見を言ったり上司のやり方を変えたりなんていうことはできるはずない事だったから。

 

私は

年上の人達に混じってずっと働いてきて

年上の意見が正しい、年上の決めたことは絶対

年上の人達の言う事を黙って聞いてれば間違うことないんだ

年上の人達が守ってくれるんだ、と。

結局の所、40にもなってずっと気持ちは子供のまんまだったのかも知れません

 

 

 

「変えていけますかねえ………」

 

いま自分が何をすべきか

そして

変えていく事が何も珍しいことでも不可能な事でもないと気付かされた今

持ち前の行動力がむくむくと湧き上がり

変えられるかどうか試してみたい、という好奇心に変わっていったのです。

 

 

次回、従業員さん達と喋る!